なぜ、介護職の上達論の本が無いのか ~実体験から効率的な上達論を考察する~

1.  疑問を抱くきっかけとなった上達論の本

 

(1)教師の上達論:向山洋一著『教師修行十年』

 

 元小学校教師 向山洋一氏の十年に亘る実践の数々が詰まっている本であり、教師修行の記録でもある。1つ1つのエピソードが濃く描写的だ。この原点から教育技術法則化運動の第一歩を踏み出したのかと思うとまた手に取って読みたくなる。

 

(2)岡本浩一著『上達の法則 効率のよい努力を科学する』

 

 ただの上達論の本ではない。絵画、スポーツ、音楽、陶芸、茶道、語学といったあらゆる分野に亘る。岡本氏自身の上達の足跡から、あらゆる分野に共通する上達の法則を読み解ける。

 

2.  疑問を抱いたきっかけ

 

(1)介護職の上達論の本を見たことが無い

 

 介護職の上達論の本もあるだろうと思い本屋で探しまくった。しかし、いくら探しても無い。1冊も無い。絶対にあった方が良いはずだ!介護現場で実績のある方が書いた上達論の本があれば、新人の参考になるのに!と熱烈に思った。

 

(2)自分自身の体験

 

 分からないことが分からない状態でいきなり介護現場に入った。試行錯誤しても前に進んでいる実感が無かった。それは他職員も同様に感じていたと思う。一方で、同じ地点からスタートしても瞬く間にコツを掴んで上達する新人も居るだろうと思った。介護職に限らず、教師、スポーツ選手などどんな職種であれ変わらない。至って普通のことなのに物凄く疑問だった。上司には「君はセンスが無い」と痛烈に言われた。

 

3.  介護職の上達論の本があって欲しい理由

 

(1)上達論の重要性

 

 センスって何だろうか?渋谷文武氏は「8割が3社以上内定をとった就活講義」で成果=努力(繰り返し)×センス(やり方)と話している。林修氏も『林修の仕事原論 -壁を破る37の方法-』で「正しい場所で正しい方向で充分な量をなされた努力は報われる」と述べている。つまり、私は努力の仕方が悪かったから上達が遅かったのだ。効率的な努力の仕方が分かればまだマシな結果になっただろう。

 

(2)介護現場にありがちな壁

 

1)かなり難のあるケース

 

・介護職としての適性、人格に難のある職員からの誹謗中傷、いじめ、教育放棄、人間

 関係の悪さ

・教育体制自体(研修・OJT、現場入り前の基礎研修)脆弱で、すぐに独り立ちが求め

 られる

・ブラックな環境(残業多い、薄給過ぎる)

 

2)それ以外でのギャップ

 

・初任者研修と現場との落差の大きさ

・職員1人ひとり違う面でケアが我流に走りがち(ケアに統一性や均質性が欠けてい

 る)

・教える側が教えることに慣れていない

・教えることに慣れていても上手く言語化できない

・教え方がバラバラ、人によって教えた内容に矛盾が生じる

・理念や方針が具現化されてない(現場での行動レベルにまで落とされてない)

・全体的にケアのレベルが低め(知識・技術が未熟)

 私の居たフロアは他職員も利用者様も人柄の良い方々に恵まれていた。今まで何とか続けて来られたのは「人柄の良さ」に支えられていたからだ。ケアのレベルも低めではなかった。ただ、それ以外でのギャップで非常に苦悩・葛藤し、混乱して成長が遅れたのも事実ではある。だからこそ、上達論を知ることがそれらを乗り越えるきっかけになるのではないか。また、私のようなセンスの無い方でも、ある一定のレベルにまで到達しやすいのではないか。

 充分実力あるベテランさんに多そうなのが、上手く言語化できないことだ。まずノウハウが継承されない。自分が苦悩・葛藤、失敗したことが何世代にも亘って繰り返される。無い方が確実に良い。だからこそ、上達論として次世代に継承された方が良い。

 

(3)私の主張「どんなに拙い上達論でも伝えて!」

 

 

 私は1年間しか介護職として働いてない。成長も遅い。そんな自分でも色々学べたことがある。その学んだことを1つでも1人でも多くの方にお伝えできたらと思う。1人の上達論は脆弱でも確かな学びの軌跡であって、それを伝えないのは宝の持ち腐れだと思う。毎日日記を書くのもアリ!ふと見返してみるとあの時見られなかった視点から面白い着想が思い浮かぶ。それが上達論の基になったりする。数人でも良い。それぞれの意見から共通する上達の法則を見出せるかもしれない。どんなに拙くても誰かの参考になる。